教室の皆様に対する私の想い

先日、発表会(2019年5月16日於:ホームギャラリーステッチ—東京都立川市)をさせて頂いた時に、皆様にお話した事を、このサイトにお越しいただいた方にもお伝えしたく、この場を借りて書かせて頂きます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

みなさん、歌が好きで、もっと上手に歌えるようになりたいと思いますよね。

でも、歌がうまくなるって具体的にはどういう事でしょうか。

音楽の理論的には答えは簡単です。

クラシックの場合、楽譜に書かれている通りの音程、リズム、音の長さを保ち、明瞭な発音で歌う事です。

では、仮に、ロボットが歌ったとして、上記の条件を満たす完璧な演奏をしたとしましょう。
それで、皆さん感動しますか?共感できますか?

私は、常日頃、歌は生き方の鏡、声は心の鏡だと思っています。

自分自身、大学で歌を学び、その後社会に出てから人生を随分と遠回りしてしまいました。この場でどんな事があったかを書くには及びませんが、それこそ何度死にたいとまで考えたかと思うと、「人生やり直してみる?」と聞かれても、二度と戻りたくないと思う程。

色々な人に助けられたことに対する「感謝」
過ぎた時は戻らないという「あきらめ」
自分の思考の転換と新たな出会いで切り開かれた「道」

それらがあって、今私は平穏な心を取り戻し、生きています。

そして、今思う事は、決して人と比べるわけではなく、昔と今の自分を比べて、明らかに、歌も、声も、全く違うと感じます。

私の尊敬する大先輩の方が主催する発表会があります。今は、4,5人の先生方仲間で、共同でされていますが、その発表会がすごいんです。
大体毎年、10時に始まり、21時まで。100人前後の方が歌われます。
なので、4部構成。

一部は、これから音大を目指す中/高校生。
二部は、音大生。
三部は成人アマチュアの方。
四部は音大院生、音大卒業生、歌劇団所属などのプロフェッショナル。

で、人数と演奏時間以外で何がすごいかというと、三部の演奏。

これ、涙なくしては観る事ができないんです。

みなさん、「人生の何か」をしょって歌っている。

解説すると、その「人生の何か」とは、

介護の真っ最中だったり
近親者の死であったり
ご自身の大病であったり
子育てなどで何も出来なかった青春リベンジだったり
かなわなかった小さい頃の夢であったりと、さまざまです。

でも、その解説がなくても、少し音程やリズムが違っていたり、声がひっくり返ったり、言葉が明瞭でなかったり、なにがしかの不備不調があったとしても、声や歌そのものににじみ出ています。

もちろん、一部は聴いていて心洗われるような純な声、四部だって若いといってもプロの演奏、聞き応えは充分ですが、歳を重ね、その中での苦悩や努力、予期せぬ人生のハプニングなど乗り越えた時の人間力は、聴いている誰かの心に影響を与える音となり、伝わって来るのです。

私は、その事に衝撃を受けました。

そして今、思います。

人は、誰かに影響を受け、誰かに影響を与え生きている。

ただ本能のままに、種の保存と生命の継続を担うだけではないそれこそが、ヒトが生きる醍醐味なのだと。

例え全身不随になったとしても、家にこもって誰とも会わなくなったとしても、一期一会のであいだったとしても。

助けてもらうことは迷惑じゃない。助ける人の心に情けを芽生えさせるかもしれない。
誰とも会わなくなったとしても、自分の脳裏に良くも悪くも焼き付いている人はいる。
もう一生、会うことがなくても、誰かの記憶に残り続けるかもしれない。

歌を歌う事だけではなく、自分が何かを発信することは、その影響力がグンと高くなります。

自分が歌う事を、家族の誰かが、友達の誰かが、喜んでくれるかもしれない。応援してくれるかもしれない。彼らは応援する事で自分との絆を感じるかもしれない。彼らに褒めてもらえるかもしれない。褒めてもらったら絶対に嬉しい。なんだか勇気がわいてくる。明日も頑張ろうと思えるかもしれない。出なかった音が出た、歌えなかった曲が歌えて、先生に褒めてもらったら、自信がつく。その自信は、知らず知らずのうちに、自分を輝かせてくれる。同じ教室の人はそれを共感できる仲間だ―――。

これが、まさに「ヒトが生きている」ことの一例です。

他の動植物にも、ロボットにも真似の出来ない「チカラ」なんです。

勿論、私自身、プロフェッショナルとして、欲は持ちたい。だから、練習します。工夫します。たまには我慢もして、正しい音程、リズム、明瞭な発音を目指し、実力を向上させたいと思います。

みなさんにも、多少の努力はして頂きたいと思います。

でも、一番大事な事、今語ったような事を、絶対に忘れないで欲しいと思います。

この教室で、私と皆さんとの間には、すでに強力な「影響力」が存在しています。

私は皆さんの歌のテクニックの向上を目指しお手伝いをします。少しでも、テクニックを身につけて頂くと、良かったなと思います。

けれども、この教室の殆どの方は私より年上、人生の先達ばかりです。私が歌以外で教わる事、影響を受ける事は山ほどあります。

是非、皆さんお一人お一人が貴重な存在であることをもう一度確認して頂いて、誰かを思い、誰かに思われる歌をこれからも一緒に歌っていきましょう。